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東京地方裁判所 平成10年(ワ)22809号 判決

原告 有限会社ケーツーブレインズ

右代表者代表取締役 萩原良一

右訴訟代理人弁護士 山崎司平

同 菅沼博文

同 谷生泰斗

被告 宇津木和幸

右訴訟代理人弁護士 井田邦弘

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

被告は、原告に対し、金七〇〇万〇四九八円及びこれに対する平成一〇年一〇月一一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、原告が、被告から買い受けたプレジャーモーターボートに売買の目的を達することができないほどの瑕疵があったことなどを理由として、売買契約を解除し、代金の返還及び損害賠償を求めた事案である。

一  争いのない事実

1  原告は、平成九年七月九日、被告との間で、プレジャーモーターボートの「アルバトロス」(長さ八・六六メートル、最大搭載人員一〇名。以下「本件船舶」という。)を、代金四五〇万円で被告から買い受ける旨の売買契約を締結した(ただし、右売買の目的物に本件船舶を係留する場所の使用権が含まれていたかどうかは争いがある。右同日締結された売買契約を、以下、「本件売買契約」という。)。

2  原告は、被告に対し、同年七月一九日に代金の内金三〇〇万円を支払い、同年八月二七日に残金一五〇万円を支払った。

3  本件船舶は、同年九月中旬ころから、被告が提供した東京都江戸川区内の新中川にある係留場所に係留されていたが、平成一〇年一月末ころ、東京都から本件船舶に対し、同所からの撤去命令が出された。

4  原告は、平成一〇年六月一六日に被告に到達した内容証明郵便(乙第五号証)で、被告に対し、本件船舶には、エンジン、ドライブ、ステアリング、電気関係等に瑕疵があるのみならず、直進することができない根本的欠陥があること及び本件売買契約の目的には係留場所の使用権が含まれていたのに、東京都の撤去命令により係留不可能な状態になったことが、売買契約の目的を達することが不能な隠れたる瑕疵に当たるとして、本件売買契約を解除する旨の意思表示をした。

三  争点

1  本件売買契約の目的物に本件船舶の係留場所の使用権が含まれていたかどうか。

(一) 原告の主張

本件売買契約の目的物には、本件船舶の係留場所の使用権が含まれており、代金四五〇万円のうち五〇万円は係留場所の使用権に対する対価である。

(二) 被告の主張

本件売買契約の目的物に原告の主張する係留場所使用権は含まれておらず、被告は、原告に対し、本件船舶の暫定的な係留場所をサービスとして紹介したにすぎない。このことは、本件売買契約締結時に係留場所の使用権に関する何らの書類も作成されていないことからも明らかである。

2  本件船舶に売買の目的を達することができない程度の瑕疵があったかどうか。

(一) 原告の主張

本件船舶には、エンジン、ドライブ、ステアリング、電気系統等に瑕疵があるのみならず、直進することができないという根本的な欠陥があり、売買契約の目的を達することができない。

(二) 被告の主張

本件船舶は中古船であり、本件売買契約は現状有姿の売買であるから、欠陥ないし不都合な点があるのは当然であるが、原告主張の根本的な欠陥は存在しない。被告は、アフターサービスとしてある程度の点検、修理をすることを約し、現実にこれを履行した。更に、平成九年一二月には、原告の要求により修理代金として三八万円を原告に支払い(内金八万円は立替金と相殺)、本件船舶の修理に関する清算は終了している。

3  右解除による原告の損害

(一) 原告の主張

本件売買契約の解除により、原告は、次の合計七〇〇万〇四九八円の損害を受けた。

(1)  支払済みの売買代金四五〇万円

(2)  別紙修理補修装備費一覧表記載の修理補修費用一六〇万〇四九八円

(3)  修理補修に当たった者の日当合計九〇万円

(二) 被告の主張

この点に関する原告の主張は争う。

第三争点に対する判断

一  争点1について

1  甲第一号証の一、二、第二八号証の一、二、第三二号証、乙第一号証の一、二、第二号証の一ないし四、第三、第七号証、第一七号証の一、二、原告代表者及び被告各本人尋問の結果によれば、次の事実を認めることができる。

(一) 原告代表者の萩原良一(以下「萩原」という。)は、小型船舶四級の免許を有し、本件船舶を購入するまでに三隻の船舶を所有していた経歴を有する者であるが、平成九年六月に、船舶関係の雑誌に本件船舶が代金四八〇万円で売りに出されていることを知り、売主の被告に連絡をして売買の交渉を始めた。被告は、日本赤十字社に勤務する傍ら、十数年のボート経験を有し、個人で船舶免許教室を開くなどしていた者である。

(二) 萩原と被告との売買の交渉において、萩原は、当初四〇〇万円なら購入すると言い、被告は四五〇万円を主張したが、萩原が、船舶を係留する場所を確保する費用として五〇万円くらいを考えていると言ったため、被告が係留場所を提供して売買代金を四五〇万円とすることで、売買交渉が成立した。

(三) 本件売買契約締結時に本件船舶が係留されていたのは、本件船舶の前所有者である三島博文が権利を有する東京都江戸川区西瑞江三丁目付近の新中川にある財団法人東京都公園協会が管理する船舶暫定係留所内の係留場所であったが、被告が本件売買契約において係留場所として萩原に提供したのは、右船舶暫定係留所から約八〇メートル上流に設置された係留施設であった。この係留施設は、川に桟橋が設置され、施錠できる出入口があるものであったが、その使用場所について何らの権利もない、単なる事実上の係留施設であり、そのことは萩原も知っていた。

(四) 被告は、本件売買契約締結後の平成九年一〇月ころ、知人の島村喬から公営の暫定係留所の権利を譲ってもいいと言われたため、萩原に紹介して譲受を勧めたが、同人は、現在無料で本件船舶の係留ができていることを理由に、右島村からの権利の譲受を断った。

(五) 本件船舶は、平成九年九月中ごろから被告が提供した係留施設に係留されていたが、平成一〇年一月末ころ、東京都から違法係留であるとして撤去命令が出され、設置されていた桟橋も撤去された。

2  右に認定した事実によれば、本件売買契約においては、本件船舶の係留場所を被告が原告に提供することも付随的な内容として含まれており、四五〇万円という代金額は右係留場所の提供についての対価を含むものであったということができる。

しかし、被告が原告に提供することを約束した係留場所は、係留施設は設置されているものの、その使用場所に関して何らの権利もないものであり、萩原はそのことを知った上で本件売買契約を締結したのであるから、その後に、東京都から本件船舶の撤去命令が出されたからといって、被告に右係留場所提供義務の不履行があったとはいえないし、本件売買契約の目的物に瑕疵があったということもできないと解される。

なお、萩原は、原告代表者尋問において、被告が提供した係留場所に対する権利は事実上のものであったが、被告から、三年間は大丈夫であるとか、右係留場所に本件船舶を係留しておけば東京都から優先的に正式な権利が割り当てられると言われた旨供述しているが、仮に被告が売買交渉中にそのようなことを言ったとしても、萩原の船舶に関するそれまでの経歴等からすれば、それが単なる見込みを言うものにすぎないことは容易に理解できたと考えられる(萩原は、原告代表者尋問において、それまで所有していた三隻の船もいわゆる違法係留をしていた旨述べている。)。

3  そうすると、本件売買契約に、右の限度における本件船舶の係留場所の提供に関する合意があったことは認められるものの、その合意された係留場所に関する使用権は事実上のものにすぎず、後に東京都から撤去命令が出されたとしてもやむを得ない性質のものであるから、この点を理由とする本件売買契約解除の主張は理由がない。

二  争点2について

1  甲第一一、第一二号証、第二六号証の一の一ないし二の三、第三〇号証、乙第八、第九、第一四号証、証人小倉公司の証言、原告代表者及び被告各本人尋問の結果によれば、次の事実を認めることができる。

(一) 萩原は、本件売買契約締結前の平成九年六月一五日ころ、以前からボートを共同で購入する話をしていた友人の森川潔を誘って被告に会い、本件船舶に試乗した。その際の操舵は被告が行ったが、本件船舶は前進全速でもハンプ姿勢(ボートの前部が上がった状態)のままで、滑走姿勢にならず、速力が満足に出ない状態であった。被告は、原告及び森川に「姿勢制御装置を修理すればもっとスピードは上がる。」、「今は操舵装置の操作が重いが、修理のため部品を取り寄せ中である。」旨を述べていた。森川は、右試乗後、試乗時の状況や本件船舶の汚損の状況から、完全に整備するには相当な費用と労力を要すると考え、このことを萩原に述べて、本件船舶を共同購入する意思がないことを伝えていた。

(二) 萩原は、その後、被告との間で単独で本件船舶の価格交渉を行い、同年七月九日、前記のとおり、係留場所の提供に対する対価を含む四五〇万円で本件船舶を買い受ける合意をした。

(三) 本件売買契約締結のころに、被告は、萩原に対し、操舵装置であるハンドルシステムの交換、発電機のスタートスイッチの取付、水道ポンプの取付、姿勢制御装置である油圧フラップの修理、電気系統の点検を行うことを約束し、被告の依頼を受けた小倉公司が、同年八月ころ、右修理点検を行った。しかし、ハンドルシステムについては、本件船舶に装着されていた部品と同じものが入手できなかったため代替部品で交換したが、ハンドル操作が重いという点はほとんど改善されなかった。また、そのころ、本件船舶の右舷側の推進機が後進時に跳ね上がるという不具合も生じていた。

(四) 同年九月ころ、萩原及び同人から依頼を受けた被告は、本件船舶を整備、補修するため、係留場所から五、六キロメートル離れた東京都江東区夢の島所在の株式会社夢の島マリンサービスのマリーナ施設(以下「夢の島マリーナ」という。)まで回航し、同所で本件船舶を陸に揚げて整備、補修を行い、不具合があったハンドルシステムについては、萩原が油圧式のハンドルに取り替える修理を行った。その後、萩原は、同年九月中に再度本件船舶を夢の島マリーナに回航し、推進機関係の修理を行った。

(五) 被告は、同年一二月、萩原からハンドルシステム交換と推進機の修理に要した費用として三八万円の支払を要請されたため、そのうち三〇万円を現実に支払い、八万円は被告が立て替えていた部品代金と相殺した。

2  原告は、本件船舶には、エンジン、ドライブ、ステアリング、電気系統等に瑕疵があるのみならず、直進することができないという根本的な欠陥がある旨主張するので、以下にこの点を検討する。

(一) 甲第三三号証の六、第三四、第三五号証及び原告代表者尋問の結果によれば、原告は、本件訴訟中である平成一一年五月二三日に、萩原、本件船舶の前所有者である三島及びその友人の高野史郎らが集って、本件船舶を航行させようとしたが、舵が思うように動かず、片方のプロペラに推力がないことなどから、独力で川の中央まで移動させるのも困難な状態にあったことが認められる。

しかし、原告代表者尋問の結果によれば、本件船舶は、平成一〇年一月末ころ、東京都から前記撤去命令が出され、係留していた桟橋も撤去されたため、その後全く動かさないまま川に放置されていたことが認められ、一年以上も川に放置されていた船舶に種々の不具合が生じることは容易に考えられることであるから、右の平成一一年五月二三日における本件船舶の状態から、直ちに本件売買契約当時に本件船舶に直進できない根本的な欠陥があったと認めることはできない。

(二) 甲第四号証の一、二、第五、第六号証、第三三号証の一ないし五、第三六号証、証人三島博文の証言及び被告本人尋問の結果によれば、平成七、八年ころ、被告が本件船舶を三島に売却したが、その後、右売買を巡って両者間に紛争が生じたため、双方とも弁護士(三島の代理人が本件原告訴訟代理人の山崎弁護士、被告の代理人が本件被告訴訟代理人であった。)を立てて交渉した結果、平成九年八月五日に、<1>本件船舶を被告がその名で第三者に売却し、三島に一切の責任を負わせないこと及び<2>被告は三島に対し、解決金として四四〇万円を支払うこと、を骨子とする和解契約が成立したこと、被告は、右和解契約に従って本件船舶を売りに出し、原告がこれを買い受けたため、原告から受領した本件売買契約の代金によって三島に対する解決金を支払ったこと、以上の事実が認められる。

ところで、三島は、その陳述書(甲第八号証)において、本件船舶は、問題のない中古艇として売却できるような代物では断じてない旨述べ、証人尋問においても、右紛争の原因が本件船舶の不具合にあったかのように述べているが、右和解契約自体が、本件船舶を第三者に売却することを前提としているのであり、甲第三六号証によれば、三島が被告宛に出した損害賠償請求書には、その理由として本件船舶の状態が悪いことも記載されてはいるが、全体的には被告が業者の領収書等を偽造したことが主要な理由として記載されていることが認められることからすると、右紛争がもっぱら本件船舶の不具合によって生じたとは解されない。

また、甲第三五号証及び被告本人尋問の結果によれば、本件船舶は、三島が被告から買い受けた際に、被告と三島の知人の高野史郎が操舵して、神奈川県の葉山町から東京都江戸川区西瑞江の前記東京都公園協会が管理する船舶暫定係留所まで約五時間をかけて回航されたことが認められるところ、高野は、右甲第三五号証の陳述書において、右回航時に、本件船舶はハンドルが異常に左に持っていかれて船が蛇行してしまう状態であった旨述べているが、その原因や程度は明確でなく、乙第九、第一五号証及び被告本人尋問の結果によれば、被告はその後、小倉公司に依頼して、本件売買契約締結前の平成九年五月ころに、本件船舶のプロペラの交換や推進機の連結棒の調整をしていることが認められるのであって、右甲第三五号証から直ちに本件売買契約締結時に右欠陥が本件船舶に存在したと認めることはできない。

さらに、甲第九号証(宮山美喜男作成の書面)には、三島が被告から本件船舶を購入した際の不具合事項が列挙されているが、本件船舶は中古船であるから、ある程度の不具合箇所があることはむしろ当然であり、前記認定のとおり、被告は、本件売買契約締結の際に一定の範囲で本件船舶の修理をすることを約し、小倉に依頼して修理をしたことが認められるから、右甲第九号証から本件売買契約締結時に右欠陥が本件船舶に存在したと認めることもできない。

(三) 甲第一四の一ないし第二六号証の二の三及び弁論の全趣旨によれば、原告は、本件売買契約締結後、平成九年七月から一一月ころまでの間に、別紙修理補修装備費一覧表記載の補修や装備を行ったこと(なお、右補修等には、前記夢の島マリーナにおける修理に関するものも含まれている。)が認められる。しかし、その内容は、別紙修理補修装備費一覧表に記載のとおり、本件船舶の清掃、外装及び内装の補修、電装品、係留用品、艇体備品等、中古の船舶を改装、改善する目的のものが大部分を占めており、原告が右の補修等をした事実は、本件船舶に売買契約の目的を達することができない程度の瑕疵があることを裏付けるものということはできない。

(四) 原告は、本件船舶には直進できないという根本的な欠陥があるというが、その原因についての具体的な主張は必ずしも明らかではない。本件船舶は、既に認定したとおり、本件売買契約締結後二度にわたり夢の島マリーナまで往復しており、少なくとも航行できない状態ではなかったことは明らかである。

3  右に述べたところからすると、本件売買契約締結時において、本件船舶には、操舵装置を始めとする相当多数の不具合な箇所があったことは事実であるとしても、原告が主張する根本的な欠陥があったとは直ちに認めることはできず、本件全証拠を検討してみても、この点に関する原告の主張を認めるには足りないというべきである。

そして、既に認定したとおり、本件船舶に萩原と共に試乗した森川は、試乗時の状況や本件船舶の汚損の状況から、完全に整備するには相当な費用と労力を要すると考え、このことを萩原に述べて本件船舶を共同購入する意思がないことを伝えていたのであり、それにもかかわらず、萩原が敢えて本件船舶を購入したことからすると、同人は、本件船舶に相当な整備、補修が必要なことを認識した上で、本件船舶を購入したということができる。したがって、本件船舶に既に認定した整備、補修を要する箇所があったことが、本件売買契約の目的物の隠れた瑕疵に当たるということもできない。

三  以上によれば、本件売買契約に売買の目的を達することができない程度の瑕疵があったことなどを理由に、売買契約の解除に基づき代金の返還及び損害賠償を求める原告の請求は、その余の点を判断するまでもなく、理由がないというべきである。

よって、原告の請求を棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判官 寺尾洋)

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